Seitoku University Graduate School それで修士論文を指導していただいた相良順子先生に相談したところ、「受けてみたら?」と言っていただき、それでやっと決心しました。相良先生には修士の時も博士の時も、たくさん励ましていただきました。修士の時には父の病気、博士では自分に腫瘍が見つかったりして、何度も途中で「やめよう」と思いました。でも、相良先生に「やめます」と手紙を書くと、「山上さん、どうしたの?」とすぐに電話がかかってきて。後期課程では2年間の休学をしたのですが、このままやめようと思っていた時にも「戻って来なさいよ」と声をかけてくださいました。相良先生の励ましがなかったら、ここまで研究を続けていられなかったと思います。通信制でありながら、指導教員との結びつきが強いことも、聖徳の魅力のひとつだと思います。学んだことで、子どもの背景を考えるように。これからは後進の指導にあたりたい―博士論文のテーマは、「中学生の将来指向性の特徴と心理的適応に及ぼす影響―学校適応感・ストレス・生活満足度との関連に着目して―」です。山上 修士論文のテーマを深めました。修士論文の段階では将来指向性が心に関連している、という程度までしか分からなかったのですが、博士論文ではどう関連しているのかまで深めて研究しました。約800人にアンケートをとって結果を分析したり、成人した若者に中学生時代の話を聞いたりと、自分なりに納得のいく研究ができたと思っています。また、博士号を取得する過程でいくつか論文を世に出すことになります。これによって、研究者の仲間入りをすることができたという自覚ができました。―論文を書くことや、大学院で学んだことで、仕事のやり方や子どもへの接し方に、何か変化はありましたか?山上 子どもの背景を深く考えるようになりましたね。元気がなかったり、問題行動をとったりする子どもがいると、「何かストレスがあるんだな」と考えて、以前よりも気をつけてケアをするようになりました。現在は週に2〜4日ほど、児童相談所で働いています。子どもの世話をしたり、話を聞いたり、生活指導をしたり。今までの仕事と学びのすべてが活きている、集大成のような仕事だと思っています。児童相談所では、ほとんどの子どもが将来に希望を持てていません。情緒的に不安定で、問題行動をとる子どもも多いです。でもそれは子どものせいというよりも、今までのつらい体験でストレスの塊になっているからです。だから、子どもが悪いことをした時にも、いきなり叱ったりこちらの意見を押しつけたりせずに、手を握って話を聞いてあげるようにしています。徹底的な傾聴です。それでもなかなか心を開いてくれないことが多いのですが、少しでも心がつながって笑顔になってくれると、本当に嬉しいです。―今後、他にやってみたいことはありますか?山上 保育士や幼稚園教諭など、将来、子どもに接する仕事をしたいと思っている学生に、自分が学んだことを伝えていきたいと思っています。将来に対する夢や希望を持つことが学生にとっても学生が将来接することになる子どもたちにとっても、誰にとっても大事、ということをアピールしたいですね。―最後に、大学院進学を検討している方にメッセージをお願いします。山上 迷っているなら、絶対に学んだ方がいいと思います。勉強したことは、仕事や人生に必ず活きてきます。可能なら博士課程まで進んだ方がいいし、私は今でも研究を続けています。研究は苦しいけれど、すごく楽しい。一人でも多くの方にその楽しさを体験していただきたいと思います。04現場で感じたこと、経験から学んだことに論理的裏付けができた―印象に残っている授業を教えてください。山上 「生徒指導・進路指導」の授業は印象に残っています。内容はもちろんですが、厳しい先生でなかなかレポートに合格をくださらなかったことが印象的です(笑)。私も確か2回ほど落としましたし、6回落としたという方もいました。長い教師生活を通して多くの児童を指導してきたのですが、学問として学ぶのと現場では違うと痛感しました。レポートを書くために専門書をたくさん読まなくてはいけなくて、それが大変でした。でも、それまで経験でやってきたことには学問的な裏付けがあったと知ることができ、とても勉強になりました。この授業に限らず、今まで経験的に「こうなんじゃないか」と思っていたことが正しくて、論理的な裏付けがあると再認識することは多かったですね。自分の研究テーマに関しても同じことが言えると思います。―修士論文のテーマは「中学生におけるストレス感と将来志向性 ―学校不適応感、自己肯定感、無気力感との関連―」ですね。このテーマを選んだ理由を教えてください。山上 小学生を見ていて、活発でやる気のある子どもたちは夢を持っているなと、ずっと感じていました。そういう子たちは自分から「大人になったら、○○になりたい」って私に言ってきます。やる気のない子たちからは、そうした将来の夢を聞かない。将来に夢を持つというか、将来を明るくとらえるか、暗くとらえるか、どうでもいいやと思うか。それは子どもたちにとってものすごく大きなことだと感じていたので、大学院入学前から、将来志向性=将来の夢や希望を持っているかと、ストレスや学校への適応との関係を研究しようと思っていました。漠然と「子どもは将来に夢を持つとやる気になる」と感じていても、データの裏付けがないと説得力がないので、それをしっかりと数字で証明したかったのです。あまり年齢が低い子だと発言が変わりやすかったりするので、児童心理の分野では研究対象は小学校5、6年生以上にするのが通例ですが、思春期特有の揺れがあったり、将来について悩み始めたりする時期でもあるので、中学生を研究の対象に選びました。結論から言うと、将来指向性の高い子どもほどストレスが低く、学習意欲や学校適応感が高いという、予想どおりの結果になりました。将来に夢や希望を持つとやる気が出る、ということです。論文指導教員の励ましで後期課程まで修了することができた―山上さんは博士後期課程も聖徳で修了なさっています。山上 はい。前期を修了した後は開放感で旅行に行ったりなど遊んでばかりいましたが、何か満たされない、もっと何かやりたいという気持ちが強くなってきたのです。でも、試験に受かる自信がない。
元のページ ../index.html#5